2021年8月14日土曜日

第6次エネルギー基本計画案が8月4日に公表され、9月3日からパブリックコメントが募集開始され10月4日の締め切りが近づいています。計画案の、おかしな点を13箇所、指摘します。

 エネルギー基本計画は別に行われた「発電コスト検証ワーキンググループ」の報告と一体のものです。その内容について、次の点が、おかしいと思いませんか。

1.原発は安全だと言いながら、福島級の過酷事故を起こすことを想定していること。

 これは、原発の深層防護の第5層を設け、原発が過酷事故を起こし人間に被曝と避難を強要すことと整合する。3.11後、いつの間にか、原発の方が人間の上位に立っている。

 基本計画は、2000炉・年に一回、つまり、50基の原発が40年稼働して、その間に一基が福島級過酷事故を起こすという想定。 2000炉年とは、放射能の半減期に比べれば、如何に短いことか。 放射能を次々と地球上に堆積していくようなもの。今生きている我々だって、福島だけではない。沖合巨大地震も近づいている折り、11年も止まっていた後、再稼働したら発電開始から直ぐ44年に達し、事故率が抜きん出て高い東海第二原発こそが、さしずめ、計画が想定している福島級過酷事故を起こす原発の第一号なのだろう。

 なお、本文では「事故を二度と起こさない」とも述べている。だから、安全を丸投げした原子力規制委員会に避難計画のチェックを要求しない。政府と規制委が同床異夢であることを放置し、国民に悟らせない。

2.「脱炭素」の前に、より深刻な「脱放射能」が有ったことを、すっかり忘れ、「脱炭素」を「脱放射能」の先に立てる「物事の軽重の転倒」。

3.「規制基準への適合を審査するのであって、”安全”と判定するのではない」と、自ら言う原子力規制委員会に、原発の再稼働如何の帰趨を丸投げしていること。規制意は第5層のチェックさえしない。 

4.原子力規制委員会に委ねたはずの原発再稼働が決まったかの如く、プルサーマル運転でプルトニウムを消化するための原発の再稼働を必須とする核燃料サイクルを、脈絡もなく唐突にやると決めていること。

 彼らの挙げる、核燃サイクルをやる理由は、資源の有効利用にしても、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減にしても確かなものでないこと。

5.使用済み燃料の処分を国民に要求するばかりで、使用済み燃料の発生を無くしたり抑えることは、端から頭に無いこと。このことが、国民の共感・協力を仰ぐために如何に肝要かを自覚出来ていないこと。

 「核のごみ」処分地が受け入れる"ごみ"は、使用済み燃料を更に再処理した後のゴミである。基本計画の文章は、支離滅裂に次のように述べている。

6.原発の欠点について、一言も触れていないこと。

 欠点1:ひとたび、戦争になれば、核弾頭を抱いてミサイルの標的になるようなもの。核先制不使用の条約締結が求められている折、その抜け道になる。

 欠点2:事故の発生、地震や避難への不備、データ改竄・隠蔽等で、直ぐ止まってしまう不安定供給電源。 

 欠点3:原発は原料発掘から保全廃棄までCO2の発生は少なくない上、冷却に用いた温排水を海に流す、海水温暖化装置。

 欠点4:太陽光発電の変動吸収の幅を狭め邪魔をする原発の硬直性の欠点に対しては、ベースロードという特権を与えている。

 欠点5;原発事故による土地の喪失を、広島、長崎と同じぐらいにしか考えていないこと。

7.原発電気のいわゆる、コストは、電気料金や税金として現世代に公然と請求出来るものの捕捉に過ぎず、自由財・公共財の毀損や、避難するコスト、将来世代が負うコスト、その他、お金の付けようのないコストが含まれていないという認識が全く欠けていること。(そして、一番大事な、晩発性の健康被害)

8.原発のコストに燃料費が入っていないこと。 

 燃料費に代わり、「使用済み燃料」を将来リサイクルする費用の「再処理費用」(「核燃料サイクルコスト」)の中のウラン燃料に計上されている。ーーーコスト等検証委員会 

 燃料を調達(ウラン燃料製造費)し装填されるまでの費用は発電後、「使用済み燃料」という資産に振り返られ費用認識されない。ーーー会計

 これは、4で述べた核燃料サイクルを、やると決めていることと直結している。燃料が国産で供給制約が無く低廉と言っていることと直結している。核燃サイクルが破綻すれば、「使用済み燃料」の資産を取り崩し、費用として全額認識しなくてはならなく、同時に再処理費用が無くなるはずが、再処理費用(会計)の太宗が埋没原価であり、取り消すわけにはいかない。結局、今の原発コストは燃料費の認識を先送りしているだけである。物的には、核燃サイクルが破綻すれば、今、処分場を見つけようとしている「核のごみ」処分が、再処理後の高レベル放射性廃棄物でなく、使用済み燃料そのものの高レベル放射性廃棄物の処分に変わる。

9.東京電力が、東海第二原発電気を火力発電コスト(石油火力26円/kwhぐらい)に近い価格で日本原電から買おうとしている時に、原発のコストは今だに11円/kwh台だと言っていること。

 東海第二原発電気の買取単価を東電は公表しないが、次のような事実が有る。2020年6月の株主総会で、日本原電から東海第二原発の電気を買い取る経済性について、たんぽぽ舎の山崎久隆氏に「買い取る目算は有るのか」と質問され、「日本原電が提示した買取単価より高いコスト単価の電源が、置き換わる自社の火力発電の中にまだ有る。」 と答えた。 

 NPO法人原子力資料情報室「東海第二原発の再稼働は電力消費者に資するか」(2020.2 松久保肇氏著)に依ると22.7円/kwh。

 東京電力が太陽光電気を買い取る価格は、4円から8円/kwhで、これと固定買取価格の差が再エネ賦課金になる。それでも、東海第二原発電気を買うと言うなら20円/kwh近い再エネ賦課金を国民に返還しなくてはならない。大手電力会社はこの賦課金の利得を原発維持に使う。    

10.太陽光発電の固定買取価格が、12円/lwh(2021年認定の10kw以上設備)と電気料金の半分以下になっても尚、再エネ賦課金が発生すること。

 消費地で生産され、謂わば、産した所ですぐ使える太陽光電気を、わざわざ一極集中発電所の大手電力会社に、回避可能費用で買い取らせているから。回避可能費用は、卸市場価格に連動して4円から8円/kwhの間で推移。(注)昨年12月、1月の卸市場価格の高騰は、原発必要論を醸成するため、賦課金を減らしても、JERAが2010年に全ての石油火力を廃止して仕組んだ一時のもの。この後、政府は流石にやり過ぎと思ったのか姉ヶ崎火力を復活し、石油火力廃止は認可制になった。

11. 住宅用や地上設置の太陽光発電所から電気自動車に直接に給電するという、促進する両者のシナジーを追求していないこと。

 (注)シナジーの効果:太陽光発電所の発電量の多い時に給電し、雨天や夜に放電のみする、否応無いが負担の無い「ディマンドレスポンス」が、全国の電気自動車が大きな蓄電池となることで仕組まれる。同時に、電気自動車の動力が「放射能」や「CO2」から完全に無縁になる。需要家が電気を受け取りに行くので、送電が不要になる。電気自動車が災害停電時に太陽光発電所から被災地に電気を持ち届けられる。再エネ賦課金が完全に無くなる。

 大手電力会社は太陽光電気を買い取り再エネ賦課金を貰い続け、それを原資に原発を維持し、再稼働の暁には夜、駐車中の電気自動車に夜、余る電気を売りたい。しかし、こうして、発電中の太陽光発電を直接、電気自動車に給電すれば、再エネ賦課金は無く、電気自動車の動力が、CO2だけでなく、放射能からも無縁になる。また、トヨタは電力の系統からの供給体制を崩したくない。

12.住宅を始め施設、ビル、駐車場に空きスペースがいっぱい有るのに、太陽光発電の適地不足を声高に言うこと。

13.ALPS処理水(正しくは事故汚染水)について、「関係者の理解無しには処理水を処分しない」との県漁連との約束が有るにも拘らず、計画案の「福島事故後10年の歩み」の項で平然と、海洋放出を行うと言っていること。

 これは、4項に述べた、核燃料サイクルをやると決めていることと直結している。燃料デブリに触れた福島の事故汚染水も、「六ケ所再処理施設」で被覆菅を破り再処理に使われる水も、核燃料に直に触れた水はトリチウムを大量に含む。稼働すれば、「六ケ所再処理施設」は、毎年、福島事故汚染水の四倍ものトリチウムを含む水を、普通に海に流す。福島事故汚染水を海に流してはいけないということになれば、「六ヶ所再処理施設」は稼働出来ないということになる。

14.安全神話は、国民がエネルギーを「自分ごと」として捉えておらず、知識・理解不足だったからと、今後は、国民の理解を深めるコミュニケーションを充実させ、国民の原発に対する不安感、政府と事業者に対する不信感・反発を除くと計画をしていること。

 安全でないと分かった原発を尚、進めようとする人々が、国民の原発に対る恐怖を緩和するために何をどうコミュニケーションするかは、原発安全神話に代わり放射能安全神話の流布か或いは原発の防護層が何重にも有るからよく知って事故を覚悟して逃げる練習をしろと言うしかないではないか。