2015年5月17日日曜日

長期エネルギー需給見通し小委員会について

長期エネルギー需給見通しの骨子の基本方針は、安全性を大前提に、①自給率を震災前を上回る水準に改善 ②電力コストを現状より引き下げる ③欧米に遜色ない温室効果ガス削減目標を掲げ世界をリードする という三つの同時達成としている。ここでの「安全性を大前提に策定された」の意味は、「安全性を重視して議論する」こととは程遠く、単に「安全なものと見做した」といったことでしかなかった。

原発の危険性の斟酌については、僅かに貨幣測定できた事故コストを単価に含めた他は、原子力規制委員会に丸投げしている。そして、この会議で決まるエネルギーミックスは、去年4月に公表されたエネルギー基本計画を踏まえて、その方針通り原発をベースロードとして用いるという成り立ちである。そのため、この会議では太陽光と風力の否定を代償に原発の良い面のみが徒らに強調され、ネガティブ面が全く取り上げられないという誤謬に陥った。こうして、原発の安全性を置き去りにしたまま、上記の三つを追求するだけの危険なものになっている。元になったエネルギー基本計画自体は、原発が無しでいけるかどうか突き詰めて究明された経緯は無いことはもちろんである。

原発の帰趨に比べたら、国民には基本方針の三つの項目の達成は二の次である。福島後のエネルギーミックスの一番の勘所は再生可能エネルギーが原発に置き換わり得るかどうかという点である。原発に反対する国民も容認する国民も、供給の安全性を確保するためには、需要がどこまで減らせられ、三つの項目が、それぞれ、どこまで叶わず、どこまで耐えられるかを徹底究明してほしいというのが本当の気持ちである。自律持続的エネルギー節減もし、再エネ賦課金も払って、しかも原発ゼロが達成され電気は十分足りている今、国民の気持ちからすれば当然である。とどのつまり、再稼動が無い場合のエネルギーミックスを作り上げる、否、作っておくということである。そして、その場合、何が困り、困りながらも耐えられる範囲か、耐えられないならば解消する術があるかどうか。出来ないなら出来ないでいい。どこがどう出来ないか徹底究明することが、この会議の役割だと思う。そうすることで初めて極限を打開する国民の力や工夫が生まれることもある。こうしておけば、再稼動する原発が実際あっても他エネルギーとの振り替えは如何様にもなるではないか。この徹底究明の関門は基本計画でも通らず、福島のことを思えば、ここで一度、謙虚に自らを追い詰める態度でやっておくべきことである。

会議では、上記の基本方針の三つの点で原発に代わりうる他エネルギーは無いと言うことに汲々とし、原発の良いところのみを拾って、決定的欠点を無視してしまうという間違いを犯している。つまり、①の安定供給の点では、事故のみならず、被弾の惧れが有る状況では在るだけで危険な原発は全て長期停止が必至であること。②の経済性の点では、原発の危険の本質である金額測定できない謂わば無限と言ってよいコスト。③の環境の点では、言わずもがなのCO2の比でない放射能の生物自然破壊と使用冷却水放流による温暖化。これらが一切無視された。
一方、太陽光発電コストは本当は電気代の6割(注1)と安いのに、固定価格買取制度(FIT)の買取期間の20年を安易に稼働年数とすることにより隠蔽された。つまり、太陽光発電や再エネの耐用年数が買取期間まで短縮された結果、FITの高い買取価格そのものがコスト単価に摺り替わる誤謬に落ちた。普及付随コストをコスト単価に含めてよいのは、それが正しく太陽光コストの補填を形成している場合に限られる。普及付随コストが無条件にコスト単価に包含されるのではない。原発と同列を強いる付随コストを含めるコストの考え方がこの誤謬に鈍感にさせたのだろう。この嘘のコストが障害になるとして、2030年の太陽光発電を7%、749億kwhに止めようとしている。この数値は、接続保留問題の20146月時点認可量7,178kwで叶えられる792億kwhで既に達成されている。太陽光の今後2030年まで15年間の普及をゼロとするつもりなのだろうか。住宅の屋根がまだいっぱい空いている。何かの間違いではないか。委員の誰も指摘しない。
本当のコストを正しく皆がしっかり了知さえすれば、ほっといても普及するものを、FITによって国民にコスト高と思わせ国民の賦課金負担を大企業や外国資本に移転しただけで太陽光の普及を突然梯子を外すように打ち止めにするエネルギーミックスである。
買取価格など撤廃して並行して政府自身が国営とし設備投資する方法もある。そうすれば正味コストで設置できるので今の電気代を更に下げられるが、FITの修正は小手先以上は真剣に議論されていない。また、太陽光や風力の蓄電技術について真剣な究明も無いまま系統不安定化の欠点のみ喧伝された。
住宅用太陽光と住宅用小型風力で地産地消を促進する絵は最後まで示されなかった。安全を第一に確保してなお三つの課題を同時達成するに絶妙である地産地消埋電源の埋没を代償に、原発の中央管理型電源が優遇されたものである。
結局、世界では最も原発代替のホープである、太陽光と風力が、嘘のコストと最初から突破を諦めた系統安定問題が理由で、太陽光7%、風力1.7%合わせて僅かに8.7%というものである。

骨子は今回のエネルギーミックスは今後の動向により、少なくとも3年ごとの基本計画の検討に合わせ必要に応じ見直すと結ばれている。見直しがどうあれ、福島事故があった直後のエネルギーミックスが最も大事である。方や、原発全基の再稼動、稼動年数延長を織り込み、方や、容易にまだまだ普及しうる太陽光や風力の普及を見込まない、今後の有りうる自然の趨勢に露骨に逆行する策定結果である。こうはならない転倒妄想的なエネルギーミックスではあるが、基本計画が知らない内に今回のエネルギーミックスの根拠にされたと同じに、このエネルギーミックスが再稼動、いや、安全規制委員会の出す合格判定の根拠、否、合格に弾みをつけるようなことだけは許してはいけない。そして、国民が太陽光と風力の普及を諦めてはいけない。

(注1)「太陽光の発電コストは15.2円/kwhと安い」参照