1. 「電力需給逼迫」は、政府と東電が原発の再稼働を進めるために、作り出しているもの。
今、「電力が不足するので、原発の再稼働が必要だ」という論調が盛んになっている。しかし、「電力需給逼迫」は、作られたものだ。東電は、火力発電部門を担当するJERA(中部電力の同部門も吸収統合)の石油火力発電の全て15基、合計出力1,000万kwを2020年4月までに休止した。原発10基分で、いまだに1基も動いていない。大手電力会社とも、火力発電を、石油を休廃止し、LNGと石炭に絞っている。原発を再稼働しなくても、これらの石油火力発電から再稼働すれば、需給逼迫の心配は全く無い。
東電の15基の石油火力発電は、高経年の発電所だが、稼働できるよう維持管理は続けられており、立ち上げるのに、基によって1、2ヶ月から半年掛かるが、再開出来ないということはない。動かせるけど動かさないのだ。供給予備率の算定では、これらは、全て動かないことになっている。
去年の冬の需給逼迫を前に、政府は申し訳のように、火力発電所の休廃止を事前届出制にすると広報し、東電はLNG火力の姉崎発電所5号機60万kwを再開しただけである。そして、3月の需給逼迫が起こった。
これらの石油火力発電を休止した理由を「増える太陽光発電に押されて、石油火力発電の収益性が下がったから止めた」と説明している。太陽光発電の日照に応じ変動する発電量を、全体需給の一致を取るよう火力発電がバックアップ調整する。太陽光発電が増えてきて、この調整コストが嵩み、石油火力発電の収益性が悪化して止めたという意味だ。電力の安定供給にかまわず、しかも、他電源に比べ格安の太陽光発電を国民が賦課金を負担して導入しようと努力しているのに、安易にやってはいけないことだ。ましてや、次に述べるように、この調整コストは殆ど只だ。
需給が一致して火力発電が電気を供給しているとしよう。そこへ、太陽光発電の電気が加われば、需給の一致を崩さないよう火力発電は同量の電気を、燃料フィードを落として減らす。燃料フィードを落とした分、火力発電の稼働率が低下する。即ち、固定費が回収出来ない。しかし、高経年の15基の石油火力発電所は、減価償却を終わり、殆ど固定費は掛からず、調整コストは殆ど只だ。
休止した理由として、高い石油価格による収益悪化やCO2のことを言っているものもある。しかし、需給逼迫対応では、その影響は最小限に抑えられる。太陽光発電の突然のバックアップの時や需給逼迫が予想される時に、素早く出力を上げられるよう最低限の石油燃料フィードで待機運転する石油火力発電を複数基、準備しておけば良いからだ。
上に理由について述べたが、これが、どうであれ、政府はこれらの石油火力発電を動かせるのに動かさないで、予備率から外しマイナス予備率を作り出し、そのことを国民に知らせず、「電力需給逼迫」を煽り、原発を再稼働しようとしている。
(続)
6月23日の朝日新聞朝刊の「参院選 政策の分岐点 エネルギー」を読んで思った。
記事の大筋は、「太陽光発電の普及で稼働率の低下した古い火力発電の休廃止が進んで、東電管内の来年1月の供給予備率がマイナスになる。電気代が上がっている。この状況下、岸田政権が原発を最大限活用する方針を打ち出した。しかし、原発も課題が多い。再エネも難しさは多い。政府は参院選で争点になるのを避けるが、真正面からの議論が必要。」というものだ。
「太陽光発電の普及で稼働率の低下した古い火力発電の休廃止が進んで」というフレーズを何故、疑問視しないのだろう。何故、簡単に肯うのだろうか。事によっては、保健所を減らして失敗した大阪のコロナ対応と似た事かもしれないのに。エネルギー基本計画の2030年の電源構成は、火力発電のLNGと石炭は2019年の7割から4割、石油は2019年の7%から2%だ。石油火力について、一足飛びにやったのではないか。電気の安定供給の責任を放棄して、否、原発の再稼働如何が決まる頃に合わせて、需給逼迫が原発の稼働で救われるように。
東電の火力発電部門(原発、水力、再エネを除いてLNG、石炭、石油だけ)のJERA(中部電力の同部門も吸収統合)は、火力の内、全ての石油火力を止めた。石油火力発電15基、合計出力1000万kw、を2020年4月までに休止した(注)。原発10基分だ。いまだに1基も動いていない。今、政府が需給逼迫対策として再稼働している火力はLNGと石炭火力で石油は一切無い。尚、2022年3月末に大井火力3基105万kwを廃止。
休止中の12基の石油火力発電は、メインテナンスが続けられており、基によって、使用前点検等に1、2ヶ月から半年かかるが、再稼働出来る。LNG火力から順に石油火力も再稼働して行く。JERAは、東電(東電パワーグリッド)から、電源別に電気の注文を受けて、その電源を動かす。従って、石油火力発電が動くのは、東電から石油火力電気の注文が入るかどうかに依る。今の所、東電からLNG火力電気の注文は有っても、石油火力電気の注文はいつまでたっても無いそうだ。来冬まで半年以上あり、注文さえ確定させておけば、これらの石油火力15基どれもが再稼働に間に合うが、来冬の予備率の算定に全く入っていない。
他の大手電力会社は、どこも石油火力発電、必要に応じ柔軟に使っている。止めている石油火力があっても、安全予備率を確保した上で止めており、大丈夫ということだ。JERAの姿勢・対応と同じだ。予備率がマイナスになっても、石油火力を止めたままで動かさないのは東電だけである。安定供給が使命の電力会社が、将来の予備率がマイナスで、なす術が無いということがあるだろうか。東電の支配株主の国がJERAに石油火力電気の注文を出さないと決めているのだ。国は国民を騙しても、停電で脅かしても、原発を再稼働したいのである。
これらの、石油火力発電の12基の内、5基でも、太陽光発電の突然のバックアップや、逼迫時に速やかに出力を上げられるように、待機運転さえしておけば十分だ。燃料フィードは、せいぜい2ヶ月間で、しかも最低限のフィードで、燃料コストとCO2は、あまり心配しなくていい。固定費は高経年で減価償却は終わり殆ど掛からない。固定費が殆ど無いので、太陽光発電の調整のため火力発電の稼働率の低下によるコスト、即ち調整コストも殆ど無い。来冬まで、まだ半年ある。今、確定予約注文を出して、予備率に算入すればいい。全く需給逼迫の心配はない。
(注)
JERAの火力発電所
LNG火力発電 4,572 万kw
石炭火力発電 730 万kw
石油火力発電 1,005 万kw
計 6,307 万kw
JERAの2020年4月までに休止した石油火力発電所
(2014年月から段階的に長期計画停止)
出力(万kw) 燃料 運転開始
広野火力 1号機 60.0 重油・原油 1980年4月 福島県双葉郡広野町
2号機 60.0 同上 1980年7月
3号機 100,0 同上 1989年6月
4号機 100.0 同上 1995年1月
鹿島火力 1号機 60.0 重油・原油 1971年3月 茨城県神栖市
2号機 60.0 同上 1971年9月
3号機 60,0 同上 1972年2月
4号機 60.0 同上 1992年4月
5号機 100.0 同上 1974年9月
2号機 35.0 同上 1972年2月 2022年3月31日 廃止
3号機 35,0 同上 1973年12月
渥美火力 3号機 70,0 原重油 1981年5月 愛知県田原市
4号機 70.0 同上 1981年6月
計 機数 15機 1,005万kw
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